飲食店のマーケティングでポジショニングを決める要素は「QSCA」と呼ばれる要素でなりたっていると言われています。Q(Quality)味に代表される品質、S(Service)店員の接客態度、C(Cleanliness)清潔感、A(Atmosphere)雰囲気。この4大要素でそのお店のポジショニングは決まるそうです。
頑固オヤジが店長のラーメン屋の場合
私のうちの近所に頑固おやじ(っぽい)店長のいるラーメン屋があります。長浜系のとんこつラーメンです、ここをQSCAで分析してみます。
Q:味はぴか一!S:店員の接客態度は良いとは言えないなあ。提供は早い!C:清潔感もない。。A:雰囲気もゆっくりできる感じじゃない。
5段階のランクを付けて定量的に打ち出して見ます。
Q=5、S=2、C=2、A=1 この様な形になります。
一人で、旨いラーメンが食べたいなあ!という時にはよく利用します。かなりヘビーユーザです。
このお店の価値は旨いラーメンという事になります、飲食店で旨いラーメンが提供できていれば勝ちのように思えますが、実はそこに落とし穴があります。
顧客が望んでいる価値が味では無い場合は売れないのです。
親しい学生時代の仲間と1年ぶりに会った時、お店を選ぶ基準はどうなるでしょうか。
“味も大事だけど、雰囲気が良くてゆっくりできるところが良い!”雰囲気を最も重要視するお客さんは少なくないでしょう。
取引先との飲み会の場合はどうでしょう。
“味は大事!旨いところじゃないと失礼になる!あと店員の接客態度も重要だし、雰囲気も座敷の落ち着けるところが良い”
味、接客態度、雰囲気、この3つをかなり重要視します。
この場合、私の家の近所にある、頑固オヤジの長浜系とんこつラーメン屋は選ばれないでしょう。
お客さんはご飯を食べに来るだけじゃない。
ここまでの流れで何が言いたいか。それはお客さんはおいしいご飯が食べられればOKという人ばかりではありません。
時と場合によっては、接客態度や、お店の雰囲気を重要視して店選びをする事もあります。
ターゲットとする顧客層がどのような人たちでどんな価値を望んでいるのかを知る事が大切です。
価値を見誤って衰退した事業
顧客が望む価値と企業が考える価値に相違があった事で事業が衰退した実例もあります。
ハーバード大学ビジネススクール元名誉教授、セオドア・レビットの分析結果によれば、米国の鉄道会社が衰退した理由は以下のとおりとなります。
米国では自動車や航空機の普及により、鉄道会社は衰退の一途を辿ったのだが、鉄道会社は自社の事業を鉄道事業として捉えており、輸送事業として考える事ができなかった。すなわち顧客のとっての「鉄道」の価値が「移動する手段」である事に気がつかなかった為に、対応が遅れた。
この話は有名な話ですが、米国では鉄道が普及していません。その理由には地理的要因が大きく影響している事もあるでしょう。しかし、マーケティングの世界では米国の鉄道会社は航空や自動車へ消費者が流れている事に目を向けず、自分の事業は鉄道事業なので鉄道を支持する消費者にだけ利用してもらえればよいと考えてしまいました。一方、日本の鉄道会社は自分たちの企業価値を鉄道だけに限定しませんでした。阪急電鉄の創業者、小林一三氏は「我々の事業は鉄道会社ではなく、沿線地域を発展させ、人々の生活を豊かにする会社である」と定義しました。この企業価値理念に従い、日本の鉄道会社は駅沿線の開発に注力したのです。現在でも鉄道会社が事業を始めた百貨店事業、観光事業、不動産事業はその会社の名前を見れば、数多くある事が一目瞭然です。
事業戦略を構築する上で、企業の提供する価値を適切に定義する事の重要性はこの歴史から垣間見れます。その上に優先度を付けたマーケティング戦略があります。
事業の価値を定義する際には、広すぎず、狭すぎずの観点で考えたいものです。